広坂通りと金沢城の石垣
緑豊かなゾーンに人の賑わいを呼び込むためにも、LRTは効果的です


 5.まちづくり・観光・公共交通は一体


―――   中川先生は、「観光スポットづくりの観光振興」より、「観光まちづくりの観光振興」のほうが、大きな初期投資を
       負わないという点も含め、地域にとって利点が多いと書かれています。
       要するに、街を歩いて回遊する観光のスタイルを定着させれば、地域の公共交通がそのまま観光の武器にもなる
       というわけですね。


中川
    そうです。観光は今後、確実にそういうスタイルに変わります。
       これも世界の流れです。観光とは街を楽しむことなんですね。

       先ほどアメリカの街の印象が残らないと話したのは、こういうことです。
       例えば、アメリカの普通の都市の場合、移動する手段は自動車しかありませんから、駅でタクシーに乗って街の
       中心まで行く。そこでビルが建ち並んでいるのを見て、ショッピングセンターで食事をして、またタクシーで帰る。
       これでは強い印象が残るはずがないのです。

       ヨーロッパの街は違います。
       LRTなりバスなりに乗って、車窓の景色を眺めながら中心に向かい、気に入った場所で降りて、いろんな店を
       ショッピングして回ったり、何も買わなくても見て歩いたりしているだけで楽しい。
       すると、「ああ、あの街はいい街だったな」と記憶に残るのです。また来たくもなる。




―――   金沢の中心部は路地が入り組んでいて、武家屋敷や用水のせせらぎもあります。
       そういう所は歩いていて楽しい。


中川    そうそう。やっぱり歩いてもらって初めて魅力がわかりますからね。




―――   展示物をガラスケースに閉じ込める博物館と違って、活きた街自体を展示するというイメージですね。


中川    そうです。重要なのは、観光によるメリットが街全体に及ぶようになっていることです。
       名所旧跡だけで勝負しても、市民にはほとんどメリットはありません。

       金閣寺や清水寺に大勢の観光客が来てくれても、それだけでは京都市民は潤いません。
       でも、清水寺の場合は、参道が歩行者化されていますので、参道で買い物をしてもらえれば、税収を通じて
       京都市民にはプラスになります。

       市民にとって一番メリットがないのは、観光バスで有名寺院の駐車場に乗り付けて、お寺だけを見て、
       またバスに乗って別の寺院の駐車場に乗り付けて、そこだけを見て帰って行くというパターンです。
       このような観光はいくら増えても市民に利益をもたらしませんし、渋滞などのマイナスも発生します。




―――  参道という発想でいえば、香林坊にLRTの電停があれば、兼六園との間の広坂の通りをもっとたくさんの人が歩く
      景色が見られるようになるかもしれません。
      そうなれば、おのずとお店やカフェが増えて、石垣を背景とした緑豊かな賑わいの歩行空間がずっと活きてきます。


中川    そうそう。そういうまちづくりによって街の魅力が高まるんです。
       歩く人が増えれば魅力的なお店が増え、それがまた歩く人の増加につながっていきます。
       自動車がガンガン通り過ぎても、街は良くなりませんからね。




―――  先生のご指摘の通り、道路は車のための単なる「通路」ではなく、「都心における貴重な公共空間」と捉えるべき
      ですね。そうすれば、いろんな活用の仕方が考えられます。


中川    もったいないですよね、道路を自動車のためだけに使うのは。
       これまでも口先では歩行者が最優先などと言われてきましたが、実際に道路の造り方をみれば、とてもそうは
       なっていません。いつの間にか、道路交通法や道路構造令などによって、道路は自動車のためのものであるかの
       ように決めてしまったわけです。この辺が非常に貧困な発想だったと思います。

       今やヨーロッパだけでなく、中国やアメリカでも中心市街地のメインストリートの歩行者化は進んでいます。
       歩行者と公共交通を重視し、自動車への依存を減らしていくことによって、魅力と賑わいを生み出すことが、
       近年の都市交通政策の基本なんです。








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4.今こそバスからLRTへ
3.金沢はヨーロッパの街をモデルに!
2.「世界の潮流」は鉄軌道にあり
1.「富山ライトレール」は特別ではない