どちらが「賑わい」と呼ぶにふさわしいでしょうか?
(左)ドイツ・ダルムシュタット   (右)京都


 3.金沢はヨーロッパの街をモデルに!


中川    それでも金沢市の場合は、バスに力を入れておられるという点で、他の都市よりずっと進んでいると
       いえるのではないでしょうか。バスとLRTは別に背反するものではありません。同じ延長線上で、同じ
       コンセプトで発展させていけばいいものだと思います。

       先日、ボストンに行ったときのことです。
       日本でいえば地下鉄路線図のように見える図を持っていったんです。
       その図を見て、空港から中心部まで地下鉄があるものだと思って、探したのですが、それらしきものは
       見当たらないのです。
       「シルバーラインはこちら」との案内通りに進むと、ターミナルの外の地上に出た。「えっ」と思っていたら
       バスがやって来ましてね。
       つまり、その図には地下鉄とバスが1つのネットワークとして描かれていたんです。
       別に区別する必要もないということなんですね。

       そのバスに乗ってみてからわかったのですが、二連接のバスで、あるところまで来るとパンタグラフを上げました。
       実はトロリーバスだったんです。
       連接のトロリーバスとは面白いなと思っていると、今度は街の中心部に差しかかったら専用のトンネルに入って
       いきました。
       専用路線を連接のトロリーバスが走っていくのですから、ほとんど地下鉄と同じ感覚です。
       さらに、別の路線では路面電車もそのまま地下に入ってきています。
       地下に路面電車の駅があって、地下鉄の電車と隣同士に停まっていたりするんです。
       低床車両に合わせて低床のプラットホームもありますので、地下駅の構内で線路を渡っている人もいました。
       日本の地下鉄では考えられないことですね。

       要するに、バスはバス、LRTはLRTなどという、別々に考える時代ではもうないのです。




―――  欧米では、人口20〜30万人の都市でも、路面電車とバスを有機的に結びつけて運営していると聞きます。


中川    それが当然ですね。金沢くらいの規模なら十分にできます。
       ヨーロッパの標準はだいたい20万人クラスですから、40万も人口があれば、十分すぎるくらいに大きいです。




―――  金沢都市圏でも、かつては地下鉄やモノレール、ガイドウェイバスの導入が検討され、LRTの導入論もありました。
       でも平成10年以降は、新交通システムの議論は途絶えていたようです。


中川    それは残念なことですが、あらためて検討したほうがよいと思います。
       交通システムはどんどん進化して、交通政策の考え方もどんどん変わっていっているわけです。
       平成10年の時点では「要らない」と判断されたのかもしれませんが、それ以降も世の中は変わっています。
       その時代その時代に、将来に向かって何が必要かを常に判断していかなければいけません。
       もう議論が終わりましたという発想は、全く建設的ではないですし、世界標準から外れています。




―――  その「世の中は変わっている」とはどのようなことなのでしょうか。


中川    まず、今までのような自動車依存型の都市構造では、環境負荷が大きくなって、将来にわたって都市を
       維持することはできないということを世界の多くの都市が認識し始めているという点です。  
       また、地下鉄やモノレールのような大きなハードを造って維持していけるような時代ではなくなってきています。
       ライトレールのような乗り物が建設費も安く、かつ効果の高い交通システムであることが知られるようになって
       きています。こういった変化は、この10年くらいの間に急速に進んでいます。

        そして、これから多くの国では高齢化社会に向かうということもあります。路面で乗り降りができて、時間が正確で
       信頼性が高く、しかも安全度も高いシステムはとても重要であるということです。
        だから、LRTの必要性はどんどん大きくなっていっているわけですね。




―――  車社会の進展と郊外の大型店の進出で、中心市街地が空洞化してもいます。


中川    それも大きな条件変化の1つです。自動車に依存していては賑わいのある街は絶対につくれません。
       これは間違いのない事実です。

       ヨーロッパでLRTを導入している都市でも、郊外に行くと、日本のものとは比べものにならないほど大きな
       ショッピングセンターがあるんです。そこにはみんな、1週間に1回くらい車で行って、水でも牛乳でもポテト
       チップスでも、まとめて買い込んできます。
       一方、街の中心部は、いろんなお店を見て回るとか、暇を見つけて街路をぶらつくといった楽しみ方ができる。
       あるいは、クリスマスや誕生日などの特別な買い物はやっぱり街なかがいい。
       日常的に人が集まって賑わいのあるエリアとして、中心市街地があるんですね。

       郊外部は、あくまで自動車での交通を中心としていますから、1つのショッピングセンターを成立させる程度の
       規模が最大値です。それ以上の賑わいを生む可能性はありません。
       それに対し中心市街地は、その程度の規模でなく、1日に何十万もの人を集められるだけの規模の商店街を
       つくり出すことが可能です。それも公共交通があればこそです。

       もし自動車だけで支えようとすれば、広大な駐車場を作ったとしてもたかだか2〜3万人程度の規模の施設を
       つくるのが精一杯です。郊外と中心市街地とでは賑わいの質と量が全く違うのです。

       例えば京都の人が、金沢の郊外に大型のショッピングセンターがあるからといって金沢に行きたいと感じる
      でしょうか。
      それぞれの街の魅力は、その街の中心部にあるのです。
      中心市街地が廃れて、郊外の商業が盛んになっていく、そんな状況を放置していては、街の魅力は明白に
      薄れていってしまいます。

       アメリカでは、ボストンやニューヨークなどは違いますが、それ以外の街はどこに中心があるのかわからない
      街ばかりです。全く印象に残らないですね。「ああ、いい街だったな」と感じることが少ないです。




―――  とすると、金沢のような城下町は、都市のあり方について、アメリカ型よりもヨーロッパ型のほうがいいですね。


中川    その通りでしょう。
       これからの観光はまち歩きが重要になることは確実ですし、市民の皆さんにとっても、街なかが魅力的で
       賑わっていることは嬉しいことだと思います。




―――  中心市街地の商店街の中には、郊外の大型店に対抗するべく「もっと駐車場を増やそう」との考え方が
      未だにあるようですが。


中川    そうやってどの都市も失敗してきたんです。自動車対自動車で勝負しても郊外に勝てっこない。
       郊外なら数千台規模の広大な駐車場を作ろうと思えば作れますが、そんなことは中心市街地ではありえません。
       一方で、中心市街地が生み出すことのできる商業の規模は郊外に比べればずっと大きい。
       郊外の商業と同じ土俵に乗って、郊外のほうが有利な方法で勝負しようという発想からは抜け出ないといけません。






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2.「世界の潮流」は鉄軌道にあり
1.「富山ライトレール」は特別ではない