ヨーロッパのライトレール。左から、ダルムシュタット(ドイツ)、ボルドー(フランス)、フライブルク(ドイツ)、ブレーメン(ドイツ)

 2.「世界の潮流」は鉄軌道にあり


―――  富山ライトレールだけでなく、市内路面電車の環状線化など、富山市ではまちづくりの要として
      公共交通政策が進められていますね。


中川    はい、それが大変重要なポイントです。
       ライトレールは単発的な事業ではなくて、お年寄りが暮らしやすい街づくりや、中心市街地の活性化など、
       様々な都市政策によい影響を及ぼしますので、いろいろな施策展開が可能になります。




―――  都市に魅力がなければ交通手段をいくら良くしてもダメという意見があり、一方、交通手段を整備すれば
      魅力もついてくるという意見もあります。


中川    交通基盤の整備は、どちらかといえば必要条件に当たるものです。十分条件ではないといえるでしょう。
       交通手段を整備すれば必ず賑やかになりますかといえば、そんなことはないと答えざるをえません。
       しかし、交通基盤を整備せずに都市間競争で勝ち抜けるでしょうか。
       しっかりした交通基盤がない限り、街の賑わいはありえないのは当然です。

       自動車だけに頼っていて、街が賑わう可能性はほとんどありません。
       これは世界中で証明されていることです。
       自動車は、大きな道路空間を必要とする割には輸送力の小さな交通手段ですし、駐車場のための広大な
       空間も必要です。

       道路1車線の幅で、1時間に通過することができる人数は、自家用車の場合は約1,000人が限界ですが、
       バスの場合は軽く3,000人、LRTの場合は6,000人以上にもなります。
       街に賑わいを発生させようと思えば、道路を有効に使って多くの人を運ぶことのできる公共交通手段を
       充実させていく必要があります。
       また、鉄道とバスを比べれば、街を形成していくという機能において、鉄道のほうが明らかに優れています。
       その意味で、これからの都市づくりにおいて、鉄軌道が非常に重要な役割を果たしていくのは間違いないことです。





―――  金沢では昭和42年に市内線が全線廃止になりました。
      一旦廃止したものをなぜまた、という市民の声も聞かれます。


中川    重要なのは過去との比較ではなく、将来に向けてのビジョンですよね。
       世界の多くの都市が金沢と同じように一旦は路面電車を廃止するという選択をしましたが、近年、あらためて
       次々と導入しています。そういった交通政策の新しい流れを理解するとよいと思います。  

       また、廃止された頃の路面電車と比べると、現在のLRTは、騒音・乗り心地・デザイン・情報システムなど、
       すべての面で大きく進化しています。環境問題への意識の高まりや、高齢化社会への対応の必要性など、
       社会状況も変化しています。

       行政の皆さんも、こういった世界の流れを勉強できる機会は少ないようですね。
       日々の用務がお忙しい中で、海外の事例を調べたりする時間をとることは難しいでしょうし、2年くらい経つと
       異動があったりしますからね。
       だから、世界の交通政策はどんどん進んでいて、日本がすでに周回遅れに入ってしまっているという現実を
       ご存知ない方が多いのではと思います。

       京都大学は「交通政策研究ユニット」をつくって、行政の皆さんに世界の新しい交通政策を学んでいただく
       機会を提供しています。毎回、多くのスライドを見ていただいて、世界で行われている先進的な都市政策の
       解説などを行っています。ライトレールに限らずバスも含め、あるいは歩行者空間の重要性も合わせて都市
       交通政策のあり方を勉強していただいています。
       そういったことを知っていただくことはとても重要なことだと思いますので、機会があれば石川県へも出向いて
       いつでもお話しいたします。




―――  交通政策部門だけでなく、役所の各部署が、富山市のように大きな都市政策の目標の下に
      もっと連携したほうがいいのでしょうね。


中川
   その通りだと思います。
      でも実際は、日本中のどの自治体もあまりそうはなっていませんね。







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1.「富山ライトレール」は特別ではない