金沢中心部の大動脈、国道157号線。
 LRTを走らせるのに十分な需要があり、LRTによって新たな需要を創出することもできる。


 8.金沢よ、前へ進め!


―――  金沢ではこれから「新しい交通システム」の導入論が本格化します。
      LRTを軸に議論が展開すると思いますが、なかなか決断するのが難しいようです。


中川    都市は常に他の都市との間の競争にさらされており、その結果によって栄枯盛衰を繰り返しています。
       都市間の競争を勝ち抜くには政策実行のスピード感が大事だということを感じてもらわないといけませんね。
       近年の自治体のトップの中には無難に任期を全うすることに重きを置いて、大きな決断を避ける傾向も強いよう
       に感じられますが、本当の政治家というのは、後世に残る仕事を成し遂げることを目指すものだと思います。

       LRTは成功事例が多い上に、工期も短く、予算的にも膨大というほどではありませんので、都市政策としては
       大変有望なものであるといえます。
       特に日本の場合「鉄道は採算がとれないもの」とみんな思い込んでいるようですが、そのようなことはありません。
       新幹線ですら赤字垂れ流しと何十年間も言われ続けてきましたが、いまそれが現実になって、実際に良好に
       運営されています。先入観や漠然とした不安感で躊躇するのではなく、科学的な分析によって将来につながる
       意思決定をすべきといえるでしょう。




―――  「渋滞するのではないか」という懸念もなお根強いです。


中川    LRTの導入は渋滞の解消が目的ではありません。
       そもそも、都市交通政策の目標自体が渋滞をなくすことではありません。
       自動車がすいすい走れても街に活気がなければ全く意味がありません。
       重要なのは、街が賑やかで楽しく活気があるかどうかです。  

       都市の中心部が賑やかで活気のある街では、どのような交通政策を行ったとしても中心部やその周辺では
       必ず渋滞は発生します。なぜなら、その街に行きたいと思う人が多いからです。
       つまり渋滞をなくすことが目標なのであれば、皆が街に行きたくないと思うようにするしか方法はないと考えた
       ほうがよいでしょう。街が衰退すれば渋滞は発生しません。実際、中心部の商業が衰退してしまった都市では
       都心部の渋滞は発生していません。逆に、賑やかな都市は、東京でも大阪でも、どの都市でも間違いなく渋滞が
       発生しています。

       渋滞については、道路が狭いとか車線が少ないというような近視眼的なことに目を向けているだけでは都市全体の
       将来展望を見失ってしまいます。
       渋滞の解消だけに目を向けてきたことが、失敗の始まりだったことに気づいて、新しい発想からの交通政策に変化
       したことが、世界の多くの都市でLRTの導入が続いていることの最も大きな理由であるといえます。





―――  採算がとれないからダメ、渋滞するからダメ、というふうな後ろ向きの議論を続けていては、いつまで経っても
      LRTは導入できませんね。


中川    街にとって有益な事業を実施しないとすれば、その分だけ市民が損をしているということになるわけです。
       本当にもったいない話です。

       世界中で成功例が少ないようなものならリスクは大きいかもしれませんが、世界中に成功例が山ほどあるのに、
       なぜやらないのか、非常に不思議ですよね。金沢よりも小さい都市で成功している都市もいくらでもあります。

       よく聞くのは、「あれは富山だからできたのだ」という言い方です。でも、金沢から見れば、
      「富山ができるのなら金沢ができないはずはない」というのが普通の発想であってほしいですね。
       駅と中心市街地との距離感なんか、ちょうどいいんです。
      「遠くはないけど歩くにはちょっと大変だな」と思うくらいの距離が一番よいので。




―――  お話をお伺いして、LRTの導入は歩行者空間の拡大とセットで考えないといけないことがよくわかりました。
      そうしてこそ、例えば老朽ビルの多い都心の再開発も進みやすくなるですね。


中川    世界の投資家の間では、歩行者空間を整備した街路に面した土地が高く評価されます。
       市街地中心部に投資を呼び込みたいのなら、メインストリートの歩行者化は大変有効です。
       例えば京都市の三条通や寺町通は、同じ道路でも、歩行者専用区間の沿道はそうでない区間の沿道に比べ、
       路線価もテナント料も明らかに高くなっています。




―――  富山市の事例と同じく、金沢市でも固定資産税が増えて、福祉や教育をはじめ、独自の施策遂行に回す財源を
      確保しやすくなりますね。


中川    はい。LRTは単なる交通機関ではありません。
       都市景観の魅力向上、都心部への集客、道路空間の高価値化、環境の改善、観光の振興など、世界に向けて
       大きくアピールする効果をもっています。
       金沢が全国に先駆けて都心での本格的なLRTを導入すれば、より大きな効果を得られることは間違いありません。








                 

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