左:富山市内の環状線      右:北陸線の新型車両

 7.地域の公共交通を軽んじるな


――――  2015年3月、北陸新幹線がついに金沢まで開通しました。
        想定外と思われているのは、駅から歩く人が多かったことです。
        一方、いわゆる二次交通の課題が解決されているとはいえません。


中川    まず「二次交通」という言葉がおかしいですね。
       北陸や東北の一部で使われ出して、その後、使っている地域もあるようですが、交通の専門家が使ってきた
       用語ではありません。都市内交通や地域交通などと呼ぶべき交通のことだと思います。

      「二次」に対する「一次」は新幹線などの幹線交通を指すのかもしれませんが、幹線を一次と呼ぶのも違和感が
       あります。
       例えば、新幹線で金沢に来る人のことを考えてみましょう。
       普通は自宅の近くから電車かバス、あるいは自動車などに乗って、「その次に」新幹線に乗って、金沢でバスを
       利用するというような行動になっているでしょう。
       新幹線は「二番目に乗る」交通機関であって一番ではありません。
       金沢市民にとっても多くの場合、新幹線は「二番目に乗る」交通機関でしょう。

       また、金沢市内のバスを利用する人のほとんどは金沢市内で移動している金沢市民の皆さんであるはずです。
       ほとんどのバス路線は、こういった市民の皆さんに支えられています。
       市民にとって最も重要な交通機関をわざわざ「二次」と呼ぶ必要はないでしょう。

       そもそも二次交通という言い方は、「二の次」すなわちあまり重要ではないというニュアンスも含んでいるように
       聞こえます。地域の公共交通を軽く見ているように感じますし、地元の住民の目線ではなく新幹線の客の目線で
       見ているといえます。

       用語の使い方を変えるというより、交通システムへの見方や発想を変えるという意味で、「二次交通」という
       呼び方はやめたほうがよいと思います。




―――  観光客が金沢の街を歩いてくれているのはいいのですが、大通りの車の騒音や排気ガス、細街路での強引な
      運転については未だ抜本的な対策はされていません。
      中心街への車の流入抑制が喫緊の課題になっていると思います。


中川    「安全で快適な歩行者空間」の拡大のため、京都では四条通の歩道を拡幅しています。
       このように、街なかが賑わうには歩行者空間の拡大がほぼ絶対条件といえます。

       ヨーロッパなどでは、中心部の道路は自動車の通行を制限し、その周りの街路でも一方通行や右左折禁止などの
       手段を組み合わせて、なるべく中心部に車が入らないように誘導する経路を設けています。
       駐車場は街の周辺に配置しています。

       都市内交通もしっかり充実させないといけません。「自動車があれば不便はない」というのは住民の話であって、
       関東や関西から電車で来る人は市内を車で移動しません。
       新幹線の開業は、利便性の高い都市内公共交通をしっかり整備するための大きなチャンスなのです。




―――  地域の公共交通では並行在来線の運営のあり方も問題です。
      石川県でも新幹線の敦賀延伸時に北陸線の全線が移管されます。運賃が上がって客が離れないか、心配です。


中川    並行在来線は、現在の特急中心のダイヤから、ローカル列車中心のダイヤに変えることができますので、
       本来はこれまで以上に地域のために活用することができるはずですし、それが完全別線方式で造る日本の
       新幹線の強みであるはずなんです。
       ところが、現実には在来線はお荷物であるかのように地方に丸投げしてしまう政策が続いていていますので、
       最大の長所であるはずの部分が、弱点にすらなっています。
       残念ながら、金沢までの開業時にもその状況は変わらなかったといえます。

       例えば富山県の「あいの風とやま鉄道」と石川県の「IRいしかわ鉄道」のダイヤを見ると、従来よりも便利なった
       という印象をもつ人は少ないでしょう。
       また、これまでと同様に運行間隔がばらばらで、わかりやすいダイヤになっているともいえません。

       鉄道はサービス業ですから、良いサービスを提供して、たくさんの人に乗ってもらい、そのことによって採算を
       高めるという方向に向かわなければいけないのですが、そのようにはなっていません。

       おそらく、最初から「お荷物だから」という先入観を前提として計画が作られたのだと思います。
       富山県のレポートを見ますと、計画策定までの手順として、まず「利用動向調査」と呼ばれるものを実施して
      「需要予測」を立て、その需要予測をもとに、採算をとるためにはいくらもらわなければいけないという計算をして
      運賃を決めています。その結果、運賃は従来よりも高くなりました。

       一方、鉄道にとって最も重要な「商品」である「ダイヤ」は、開業ぎりぎりになるまで決まらず、実際に決まった
       ダイヤは便利でもわかりやすくもありません。商品の質を決める前に需要を予測しても全く意味がありません。
       殿様商売といわれても仕方ありません。サービス業の基本原理が理解されていないようです。

       サービス業の基本原理はいうまでもなく、商品の質を高めて魅力的な商品を提供し、需要を開拓することによって
       成立させることです。こうした発想からスタートしていないのは、やはり最初からお荷物であることが前提となって
       いたからなのではないかと思えます。




―――  結局、新幹線が優先で、地域の公共交通は「二の次」という発想なので、二次交通という言葉に何の違和感も
      覚えないのだと思います。


中川    昔のように鉄道しかなく、競争に曝されていない状況でしたら、どんなに値上げしても乗ってくれる人もいるでしょう。
       でも、今は誰もが自動車を持っています。
       そんな時代にサービス水準抜きに需要が計算できるなんてことはありえないのです。
       このような発想のままですと、日本の多くの交通事業者が繰り返してきたのと同じ失敗をすることになるでしょう。
       つまり、サービス水準を下げて運賃を上げる、すると乗客が減る、乗客が減るとまたサービス水準を下げて運賃を
       上げるという悪循環です。

       人口規模が小さければ、どんなに頑張ってもそうなってしまうかもしれませんが、金沢や富山のような大都市では
       そうはならないです。現在でも輸送密度が1日7,000人もあるのですから、サービス水準を上げれば、これまで
       顕在化していなかった需要を創出できるだけのポテンシャルが十分あります。

       現に、サービスが良くて運賃もそれなりなら、「電車で通ってもいいよ」という人はたくさんいるはずです。
       金沢と富山の間などは、本来ならドル箱路線になるはずです。
       そこに例えば、関西でいえば「新快速」のような優れたサービスをわかりやすいダイヤで提供すれば、新幹線とは
       別の需要を開拓できます。

       しかしながら今のダイヤではそうはなりません。
       金沢・富山間の高速バスは大変わかりやすい良いダイヤで便利になっていますので、このままでは鉄道利用は
       減っていくでしょう。
       せっかくサンダーバードが走れるほどのいい線路を持っているのに、それを活かさないのはもったいないです。




―――  「人口が減るから需要も減る」というお役所的な予測に基づいて経営しているのではないでしょうか。


中川    その発想ではもっと需要が減っていきます。
       新幹線の延伸に備えて、石川と福井と富山が一緒になって、全体の需要を増やしていくべきです。
       並行在来線はお荷物でなく、地元に与えられた大きなチャンスと捉えるべきなのです。
       北陸には、並行在来線の成功事例を示せるだけの実力が十分あります。








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6.中心市街地への積極的投資を!
5.まちづくり・観光・公共交通は一体
4.今こそバスからLRTへ
3.金沢はヨーロッパの街をモデルに!
2.「世界の潮流」は鉄軌道にあり
1.「富山ライトレール」は特別ではない