リレーコラム*4

幻の路面電車
 綿 里美

 金沢市内に、かつて路面電車が走っていた。

 私がその事実を知ったのは、たまたま見た早朝のテレビ番組がきっかけでした。
 眠気覚ましにつけた番組の中で、かつての路面電車が石川門の下をくぐり、兼六園下を走り抜ける様子が
映されていました。車でごった返す今の金沢からは想像もできない当時の光景に、新鮮な驚きを覚えました。

  懐かしく情緒のある、かつての金沢の風景。
 もし今も路面電車が残っていたら、鎌倉の江ノ電や松山の坊ちゃん電車のように、金沢の名物になっていた
かもしれない。今は幻となった路面電車の姿に、切ないような何とも不思議な気持ちを覚えたのでした。





 その路面電車を、現代に復活させよう。

 そんな市民運動があると知ったのは、新幹線開業前の平成22年頃。
 飲酒運転が社会問題となり、私の勤務先である繁華街・片町が寂しくなってきた頃でした。
 その片町に、金沢市の中心街に、新型路面電車(LRT)を通して、金沢駅と石川線・浅ノ川線をつなげて
しまおうという大胆な構想。

 幻の路面電車が、復活するかもしれない。
 もし実現すれば、北陸新幹線で金沢を訪れる観光客が、気軽に街中や白山麓まで足を伸ばすことができる。
 海側・山側の住宅地からも、人々が街中へ自由に行き来できるようになる。
 片町で酔っ払っても、安心して帰ることができる。
 想像するだけで心躍る未来図でした。
 LRTの実現は、片町にも明るい未来をもたらしてくれるものと、すごく期待していました。


 あれから6年。残念ながらLRTは実現されないまま、北陸新幹線開業の日を迎えてしまいました。
 金沢駅前や武蔵エリア、有名な観光スポットは賑やかだけど、夜の片町は…というのが正直な感想です。
 けれど行政で新しい二次交通についての政策が議論され、LRTが話題に上るようになりました。
 そして、いよいよ新交通システムの機種選定が始まろうとしています。

 ぜひ、幻の路面電車を復活させて欲しい。
 もっと多くの人々が、もっと気軽に便利に、中心街へ行ける仕組みを作って欲しい。
 バスになるのか電車になるのか、それとももっと別の何かになるのか。
 未だわかりませんが、新しく変わろうとしている金沢を見届けたいと思います。




2016.5.10掲載